- 〈 序・破・急・転・結 〉 -




 子どもの頃は漫画家になりたかったので、このような本を読んで勉強したものだ。


 「ストーリーをつくろう」という項があり、私はこれで〈起・承・転・結〉という構成法を学んだのである。



 クラシック音楽で〈起・承・転・結〉に相当するものは何だろうと考えると、まず交響曲とかソナタですよね。大概4つの楽章だし。

 パッと思いつくのが、私の場合、チャイコフスキーの交響曲第4番。
 第1楽章〈起〉、第2楽章〈承〉、第3楽章〈転〉、第4楽章〈結〉。分かりやすいね。
 ただこれだと、1・2楽章で不幸だったのが第3楽章で酒飲んで愉快になって、第4楽章で世事を忘れて憂さ晴らしをするという物語になりかねない。(まあそれはそれで構わないが)


 物語の構成法として、ほかに〈序・破・急〉というのもあって、いろいろ調べてみると〈起・承・転・結〉とそんなに変わらないという説明もあるんだけど、私はちょっと違うんじゃないかと思っていて。
 やはり文字通り、だんだん加速していくっていうイメージである。進むほど急展開するみたいな。

 クラシック音楽だと、ベートーヴェンの『月光ソナタ』とかが相当するように思う。
 第1楽章〈序〉、第2楽章〈破〉、第3楽章〈急〉。ピッタリと当てはまる。 


 さて、変奏曲の中に〈起・承・転・結〉や〈序・破・急〉のようなストーリー性のある構成を持つものはあったりするものだろうか。

 基本的に変奏曲って、だんだん音型が細かくなっていくものだと思っている。
 ベートーヴェンの『熱情ソナタ』の第2楽章など正にそう。主題と3つの変奏及びコーダから成ってるが、変奏はだんだん音符が細かくなっていくだけっちゃだけ。すげーシンプル。でも、これこそ〈序・破・急〉!

 主 題  4分音符のリズム   
 第1変奏 8分音符のリズム
 第2変奏 16分音符のリズム
 第3変奏 32分音符のリズム
 コーダ  元に戻る



 ハイドンなんかはどうしてたんだろ。
 交響曲第94番の第2楽章。例の、突然 ff をかまして聴衆をびっくりさせるという音楽。これ変奏曲。

 主 題  ハ長調 
 第1変奏 ハ長調 (16分音符による装飾が付く)
 第2変奏 ハ短調 (短調になり、荘重な感じになる) 次の変奏へのブリッジがある
 第3変奏 ハ長調 (一転、軽やかな感じになり、対旋律が付く)
 第4変奏 ハ長調 (全奏で始まり、盛大な感じになる) フェルマータで結ぶ
 コーダ  ハ長調 (弱音で微かに不穏さも漂わせるが、ユーモラスな感じか?)


 むりやり物語性をはめ込むと次のような感じになるか。

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈起〉 順風満帆
 第2変奏〈転〉 突然の困難
 第3変奏〈承〉 平穏さが戻る
 第4変奏〈結〉 めでたしめでたし
 コーダ〈後日談〉実は〇〇だったとさ


 みなさんきっと異論あるでしょうねえ(笑)。


 そもそも〈起・承・転・結〉と〈序・破・急〉の両方が組み合わさるわけにいかないかなあ。もはや、感覚的な世界になっちゃうけど。大枠が〈起・承・転・結〉で、サイドストーリーとして〈序・破・急〉が入る、みたいな。


 例えば、ハイドンからもう一つ、交響曲第101番「時計」第2楽章。

 主 題  ト長調
 第1変奏 ト短調 (いきなり短調になり、激しく展開する)
 第2変奏 ト長調 (長調に戻り、軽やかさも戻ってくる) ここで一旦終結する
 第3変奏 変ホ長調(転調して気分が変わるが、長くは続かない) ブリッジで次の変奏へ
 第4変奏 ト長調 (盛大な感じになり、最後は穏やかに終わる)


 これに当てはめちゃうと、

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈転〉いきなり困難に直面。そこへ勇者が現れる。
 第2変奏〈結〉平穏が取り戻される。
 第3変奏〈破〉と思ったら、その勇者は陰でコソコソ・・・
 第4変奏〈急〉と思ったけどやっぱりいい人でした。めでたしめでたし。

 といったところか。ワケ分からん(笑)。


 一つ言えるのは、ハイドンの場合、もしかしたら劇的展開(主題が長調の場合、短調の変奏)を意外に早めにもってくるのが特徴なのかもしれない。
 ある意味、誠実だよね。ヘタに〈承〉の部分を引っ張ろうとしなかったということになる。


 モーツァルトで何かできないかな。
 クラリネット五重奏曲の終楽章。変奏曲だけど、構成についてはいろんな捉え方があるようで、ここでは、主題と6つの変奏として扱います。

 主 題  イ長調
 第1変奏 イ長調 (クラリネットの跳躍が印象的)
 第2変奏 イ長調 (伴奏の三連符のリズムが印象的)
 第3変奏 イ短調 (短調になり、半音階的下降が印象的)
 第4変奏 イ長調 (長調に戻り、クラリネットの16分音符が印象的) ブリッジで次へ
 第5変奏 イ長調 (アダージョになり、ゆったりした感じ) ブリッジで次へ
 第6変奏 イ長調 (アレグロになり、快活な感じで終わる)


 これにストーリーを当てると

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈起〉 順風満帆
 第2変奏〈承〉 このままこのまま
 第3変奏〈破〉 困難に直面
 第4変奏〈急〉 なんとかやりすごしました
 第5変奏〈転〉 でも、これでよかったのかと振り返ってみれば・・・
 第6変奏〈結〉 ま、いーや。今がハッピーなら。

 ワケ分からん。怒られるぞ!(笑)




◇◇◇



 ベートーヴェンも変奏曲を多用してたよね。
 有名どころから。
 まず、交響曲第3番「英雄」の終楽章。
 当然変奏曲だと思ってたら、フーガ的展開とかソナタ形式の要素も盛り込まれていて、一筋縄じゃいかないみたい。ここでは、主題と10の変奏として考えます。

 導入             とりあえずハッタリをかます
 第1主題提示         ピチカートで始まる
 第1変奏           アルコで主題を奏でる
 第2変奏           弦の三連符の伴奏がある
 第3変奏(第2主題提示を含む)タラーラ ラーラ ラーラ ラ-ラの第2主題が示される
 第4変奏(フーガ的展開)   第1主題を元にするフーガ
 第5変奏(自由変奏)     第2主題が展開される     
 第6変奏(自由変奏)     タータッタ タータッタ タッタラッタラッテラッタの部分
 第7変奏(フーガ的展開)   一度第2主題が示されてから、第1主題によるフーガ      
 第8変奏           ポコ・アンダンテになって一旦落ち着く
 第9変奏           引き続きゆったりした中、第2主題が朗々と奏される
 第10変奏(コーダ)      前半はゆったり名残惜しそうにし、後半プレストで終結

 これは大がかりだね。どうしよう。

 むりやり〈起・承・転・結〉〈序・破・急〉を当てると、

 導入~第1主題提示 ⇒ 〈序〉 少しコミカルな、勇者の紹介
 第1変奏~第2変奏 ⇒ 〈起〉 剣を手に入れる
 第3変奏~第5変奏 ⇒ 〈承〉 仲間が加わり、連戦連勝
 第6変奏        〈破〉 強敵が現れる
 第7変奏        〈急〉 それでも勝つ
 第8変奏~第9変奏 ⇒ 〈転〉 過去を振り返りながら、新たな挑戦を決意
 第10変奏      ⇒ 〈結〉 次の旅へと胸ふくらませてたら、実はすべて夢でした

 怒られるぞ!!

 たまたま偶然だけど、さっきのモーツァルトと同じ順列になってしまった。
 もしかして、最終楽章だということも、何か影響してるのだろうか??全体の最後だから、おしまいの方でしっとりとさせたい、みたいな。


 思ったより上手くいかないな。

 ベートーヴェンだと交響曲第5番第2楽章も変奏曲。
 子どもの頃は、森の中の動物たちの出来事を描いてる音楽のように捉えていた。大好きな楽章だ。

 主 題  AB
 第1変奏 AB (音符が少し細かくなる)
 第2変奏 A  (音符がさらに細かくなる)
 第3変奏 AB (木管が中心でメロディを奏でた後、全奏となる) 変ホ長調のブリッジ
 第4変奏 A  (短調となり、タンゴのような楽想)  
 第5変奏 A  (全奏で主題が再現される) 
 コーダ (A) (ピウモッソになった後、テンポが戻る)

                    (日本楽譜出版社の総譜 稲田泰の解説による)

 これはどうなるだろう。
 コーダ前半のピウモッソの部分(ファゴットがもそもそ言うところ)を分けて考えたいところではあるが。

 主 題  〈序〉 転生したら異世界だった
 第1変奏 〈起〉 とりあえずがんばろう
 第2変奏 〈承〉 生きる術を身につけた
 第3変奏 〈破〉 時々変な敵も出るが戦えば勝てる
 第4変奏 〈転〉 よっぽど変な敵が出てきた
 第5変奏 〈結〉 なんとかなって、めでたしめでたし
 コーダ  〈急〉 あの敵も今じゃけっこういいヤツ。と思ってたら実は全て夢でした。

 怒られるってば!(笑)

 なかなか難しいね。
 ってゆーか、別に物語を無理やりハメなくてもいいんだよね。物語「性」さえあれば。


 ベートーヴェンをもう一つだけ。
 弦楽四重奏曲第14番第4楽章。主題と6つの変奏及びブリッジを経てコーダへとつながる。
 最高の音楽である。

 主 題
 第1変奏(旋律を間延びさせた上に装飾を施してる感じ?)
 第2変奏(ピウモッソになり、8分音符が続く)
 第3変奏(テンポが戻り、各楽器ごとの対話が続く)
 第4変奏(アダージョとなりピチカートの合いの手が入る後、上昇音型が印象的な部分へ)
 第5変奏(アレグレットとなり、持続音が印象的な部分)
 第6変奏(アダージョとなり静かに歩みを進めるような後、チェロのレロレロレーが入る)
 ブリッジ(三連符でインプロビゼーション的につないだ後、トリルを経て・・・)
 コーダ (テンポを速くし揺らしながら、最後はチャーミングに終わる)

 変化の多い変奏曲である(!)。
 しかも、単純に各変奏の分量(小節数、長さ)がバラバラで不均一だ。

 構成法をあてがう余地などないが、強いてこじつければ次のようになろうか。

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈起〉
 第2変奏〈破〉
 第3変奏〈転〉
 第4変奏〈転〉
 第5変奏〈転〉
 第6変奏〈転〉
 ブリッジ〈結〉
 コーダ 〈急〉

 つまり〈承〉がなく、〈転〉がいくつも続くのである。
 不安だらけだが、同時に安らぎがある。矛盾することこの上ない。でもそれが現実世界だ。
 必然的展開のハズもなく転がり続けるだけだが、根底の主題をあたかも意固地になってるかのように温め続け、そして最後には「これでよかったのだ」と終わるのである。そんな音楽のような気がする。
 ダメだ、うまく表現できないな。

 「残念ながら、私たちの言語には、こういう音楽の動いている霊妙な領域について書きしるす能力が与えられていない。」

(by吉田秀和)


 それじゃブラームスを。
 『ハイドンの主題による変奏曲』。やっぱこれだね。
 変奏曲の傑作。主題と各変奏との辻褄が、当然だがことごとく合っており、「そうかこんな手があるのか」と唸らされる。
 最初のうちは少し取っつきにくいが、聴き込むほどにジワジワ味が出てくる。(そりゃブラームスだもの)

 主 題  変ロ長調
 第1変奏 変ロ長調(弦がもぞもぞ動く感じ) 
 第2変奏 変ロ短調(短調のピウ・ヴィヴァーチェになり、少し気ぜわしい感じ)
 第3変奏 変ロ長調(コン・モートになり、少し朗らかに陽が差すような感じ)
 第4変奏 変ロ短調(短調の3拍子になり、悲しい感じ)
 第5変奏 変ロ長調(一転して明るいヴィヴァーチェになり、技巧的に入り組んだ感じ)
 第6変奏 変ロ長調(ホルンの「ポウポポ ポウポポ」が印象的) ここ好き
 第7変奏 変ロ長調(穏やかなグラチオーゾになり、平和な感じが漂う)
 第8変奏 変ロ短調(短調のプレスト・ノン・トロッポになり、ピアニシモの謎めいた音楽)
 終 曲  変ロ長調(どっしりと落ち着いた展開を経て、ラストは堂々と終結する)

 短調の変奏の置き所が絶妙。終曲前の第8変奏が短調なのは如何なる意味があるのだろう?
 そして最後の「終曲」は、これだけで変奏曲(パッサカリア)になっており、この部分だけで変化に富んでいるという非常にややこしい構造なのだが、その話はさておき。


 物語性なんて当てられるかな。

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈破〉
 第2変奏〈急〉ここまでは序章、あるいはサイドストーリー
 第3変奏〈起〉
 第4変奏〈転〉
 第5変奏〈転〉
 第6変奏〈承〉
 第7変奏〈承〉
 第8変奏〈転〉
 終 曲〈新たな起・承・転・結〉

 意味ねーことやってんなしかし、(笑)

 なーんかストーリー性がしっくりくるような変奏曲ってないもんかねえ。


 ということで、最後にシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」の第4楽章を。

 超絶大好きな曲である。

 主 題  ニ長調 (バイオリンが旋律を奏でる。ピアノはお休み。)
 第1変奏 ニ長調 (ピアノが旋律を奏でる)
 第2変奏 ニ長調 (ビオラが旋律を奏でる)
 第3変奏 ニ長調 (ピアノの32分音符の下、チェロとコントラバスが旋律を奏でる)     
 第4変奏 ニ短調 (三連符の強奏で始まり、ピークを形成する) ここで一旦終結する
 第5変奏 変ロ長調(転調して、チェロが旋律を奏で、新しい世界への扉を開く)
 第6変奏(コーダ)ニ長調 (バイオリンとチェロが交互に旋律を奏で、穏やかに終わる)

 第4変奏が少し名残惜しそうに静かに終結し、ああ変奏曲全体が終わったんだなあと思っていると、一瞬の間を置いてチェロが第5変奏のメロディを奏で始める。変ロ長調に転調しており、それまでと異形を呈している。そして第5変奏もいつまでも別れを惜しむかのようにフェルマータで終わると、飛び跳ねるように第6変奏が始まる。
 この一連の展開。作品全体の最大の聴きどころだと思う。


 さて、どんな物語性が奏でられるだろう。

 主 題 〈序〉
 第1変奏〈起〉
 第2変奏〈承〉
 第3変奏〈破〉
 第4変奏〈急〉クライマックスの後、一旦すべては丸く収まる
 第5変奏〈転〉不意に、新たな展開。今後の予想がつかなくなる。
 第6変奏〈結〉と思ったら、無事にハッピーエンド


 ・・・不思議だ。モーツァルトのクラリネット五重奏曲といい、ベートーヴェンの英雄交響曲といい、この曲といい、必ず〈 序 ⇒ 起 ⇒ 承 ⇒ 破 ⇒ 急 ⇒ 転 ⇒ 結〉という並びになる。

 最後の〈 急 ⇒ 転 ⇒ 結〉という展開が肝のような気がする。
 〈急〉で一旦幕を下ろしたはずが、予想外の角度から〈転〉が始まるのだ。

 そうだ、この構成法・・・。何か思い当たるぞ。少し視野を広げてみれば・・・、

 なんと、なんとなんと!
 シューベルトの五重奏曲「ます」の楽章構成そのものではないか!!

 第1楽章〈序〉
 第2楽章〈破〉
 第3楽章〈急〉 ここで作品自体が終わることも可能
 第4楽章〈転〉 意表を突く新たな展開
 第5楽章〈結〉 でもハッピーエンド


 第1楽章から第3楽章が〈序・破・急〉。そこで一旦終わった後、第4楽章が新たな展開を示す〈転〉、そして第5楽章〈結〉と続くのである。

 〈序・破・急・転・結〉。この流れが感動の源だったのだ。

 シューベルトのピアノ五重奏曲の場合、作品全体が〈序・破・急・転・結〉である上に、その〈転〉の部分に、まるでマトリョーシカのように小さな〈序・破・急・転・結〉が組み込まれているわけである。

 音楽の奥行きの深さというのは、こんな風にして生み出されるのであった。


 ムリがあるなあ。。

(了)

投稿者

エヌ氏

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