昔録画したVHSテープを物色していたら、昭和から平成に変わった日のNHKの放送とかが出てきた。
 私は昭和も平成も令和もそんなに変わっちゃねーなーと基本的に思っているが、それでも、ちと感じ入るところがあったので、せっかくだからお示しいたします。


 昭和天皇が吐血されたのは、1988年(昭和63年)の9月19日であった。全く私の記憶からは外れてしまってたが、これはソウルオリンピックが始まってすぐの頃だったのだ。
 で、9月23日に体操女子の個人総合がNHK総合テレビで放送され、私は録画してたのである。ルーマニアのシリバシュとソ連のシュシュノワが金メダルを争った歴史に残る名勝負。そのオリンピック中継の合間のニュース映像が残っていた。


 崩御されるのが翌年の1月7日なので、これも私の記憶と異なり、今振り返ると長い闘病だったのである。
 「自粛ムード」というのがあり、どうも記憶の定かでない話ばかりで恐縮だが、私の記憶だと、最初のうちはだんだん自粛ムードが強くなっていって、CMで「お元気ですか」と言うのも控えるようになったんだけど、でも、あんまり強すぎる自粛ってのも天皇ご自身や皇族方もお望みのことではないのではないのかという雰囲気になり、「自粛ムードを自粛する」ムードに変わっていったような気がする。記憶違いかもしれないが。


 1989年1月7日。
 天皇陛下崩御に係る宮内庁会見や新元号発表についてはあまりにも有名で、私もニュースなどは逆に録画などしてなかったほどだが、今回、1月7日の23時59分から翌朝6時10分ぐらいまでのNHK総合テレビの放送を収めたビデオが出てきた。どのくらい貴重なのか大して貴重でないのかは分からないけど、抽出してお届けいたします。


 昭和から平成に移る瞬間の映像。(ユーチューブなどで既出です。)


 平成元年1月8日の午前0時、すなわち平成最初のNHKの放送は「映像でつづる昭和史」という番組だったのだ。
 この番組は今振り返ってみれば、昭和の締めくくり時に昭和を総括したものであり、たいへん興味深い。(例えば、今「昭和時代をまとめてみろ」と言われても、同じような内容になるのだろうか??)


 んで、この「映像でつづる昭和史」が3時21分まで続いた後、平成最初のNHKニュースが流れるのである。


 このニュースが3時31分に終わると、ここからが重要なのだが、何の事前説明もなく、パイプオルガンの演奏が始まるのである。
 曲名も示されず、演奏者名だけが静かに表示される。


 このパイプオルガンの演奏が延々、6時まで続く。
 昭和天皇への哀悼の意と元号が変わることへの厳粛な気持ちを表すに相応しい、時代をつなぐ架け橋である。って、こんな深夜のどん詰まりに2時間半もの間、何の前触れもなく始まったパイプオルガンの演奏をずーっと視聴する人など世の中にほとんどいなかっただろうけど。


 ところが、何か明確な意図があったら凄いことだと私は思うが、この中でブルックナーの交響曲第7番第2楽章のオルガン版が演奏されているのである。平成の未明にブルックナーが響くのである。


 これが実に良い。絶妙の選曲である(笑)。正に時代の変わり目にピッタリだ。
 音楽の力なのか「クラシック音楽」の力なのかブルックナーの力なのか楽曲の力なのか、楽器の力なのか演奏の力なのか、そこに時代が変わるという非日常的な力が加わり、心に染み入る。平和の尊さとか人類愛のようなものがしみじみと、いつにも増して沁みてくる。
 今この演奏(音質は悪いですが)を聴くと、令和も平成も昭和も、生きづらさや世の中の面倒臭さとかは、そんなに変わっていないんじゃないかという気になる。いい意味で(笑)。てか、もっと遥か昔の時代からも。人間の営みとか心情なんて、昔とそんなに違わないんじゃないかというふうにさえ思えてくる。いい意味で(笑)。
 さらに言うと、これは人によって違うかもしれないけど、なんだか前向きな、創造的な力を感じる。しみじみとしながらも、なんだかファイトが湧いてくる。
 平成が明けようとしている時にブルックナーの交響曲第7番の第2楽章が流れていたのを覚えている人がどれだけいるのだろう。こうして最初の朝を迎えたのです、平成は。


 そして6時のニュースが始まる。
 この日は日曜日。朝のニュースを見ようと少し早くテレビをつけた人は、パイプオルガンの演奏にしばし耳を傾けることになったのですね。





 有頂天に「Sの終わり」という曲があり、知らない人も多いかもしれないけど、素晴らしい曲です。他で味わえない、得も言われぬ感動があります。
 ‶S“ とは昭和のことです。詞中の〈さあ 走らないで とどまれ〉とはどういう意味でしょう。様々な解釈ができます。村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」のラストの主人公の行動をどう解釈するかに少しだけ似ているような気がします。
 (アルバム『GAN』自体が素晴らしい。)