対象期間:デビューから2023年3月まで


 先手番で負けることは少ないが、後手番で負けたサンプル数はほどよく存在する。敗因を分析していってみよう。


【参考文献】藤井聡太全局集 平成28・29年度版~令和4年度版・下 七冠獲得編(日本将棋連盟)
      藤井聡太 完全データブック 令和5年度版(日本将棋連盟)


 後手番で負けとなった対局は次の通りである。

【戦型略称】角換わり腰掛け銀⇒角銀、角換わりその他⇒角他、相掛かり⇒相掛、矢倉・雁木系⇒矢雁、横歩取り⇒横歩、対中飛車⇒対中、対四間飛車⇒対四、対三間飛車⇒対三、対向かい飛車⇒対向、対角交換振り飛車⇒対換、その他⇒他型   

  日付  棋戦 相手戦型
①H29.7.2竜王戦本戦佐々木勇気相掛
②H29.7.21YAMADA杯三枚堂達也角銀
③H29.8.4王将戦予選菅井 竜也対中
④H29.8.24棋王本指直豊島 将之角銀
⑤H29.9.2加古川青流井出 隼平対三
⑥H29.9.748期新人王佐々木大地相掛
⑦H29.11.13NHK杯本戦稲葉  陽相掛
⑧H30.3.28王将戦予選井上 慶太矢雁
⑨H30.6.11NHK杯本戦今泉 健司対中
⑩H30.6.29竜王戦本戦増田 康宏矢雁
⑪H30.7.6王座戦本戦斎藤慎太郎矢雁
⑫H30.9.3棋王戦本戦菅井 竜也対中
⑬H30.11.23叡王戦本戦斎藤慎太郎角他
⑭H31.3.11棋聖戦予選久保 利明対四
⑮R1.5.23銀河戦本戦豊島 将之相掛
⑯R1.5.28棋王戦予選都成 竜馬相掛
⑰R1.6.3王座戦本戦佐々木大地相掛
⑱R1.7.8NHK本指直久保 利明対四
⑲R1.8.29叡王戦予選村山 慈明角銀
⑳R1.10.7王将挑決リ豊島 将之相掛
㉑R2.2.11朝日杯準決千田 翔太角銀
㉒R2.3.9棋王戦予選出口 若武角他
㉓R2.10.5王将挑決リ豊島 将之相掛
㉔R2.10.12NHK杯本戦木村 一基角銀
㉕R3.5.6王座戦本戦深浦 康市矢雁
㉖R3.6.3順位戦B1稲葉  陽角銀
㉗R3.8.3叡王五番②豊島 将之角他
㉘R3.8.22叡王五番④豊島 将之相掛
㉙R3.9.17棋王戦本戦斎藤慎太郎角他
㉚R3.10.11NHK杯本戦深浦 康市矢雁
㉛R3.11.21JT日本シリ決豊島 将之角他
㉜R3.11.24王将挑決リ永瀬 拓矢相掛
㉝R4.1.16朝日杯本戦永瀬 拓矢矢雁
㉞R4.5.6王座戦本戦大橋 貴洸矢雁
㉟R4.6.28・29王位七番①豊島 将之角銀
㊱R4.8.10順位戦A級菅井 竜也対中
㊲R4.10.7・8竜王七番①広瀬 章人角銀
㊳R4.11.3棋王戦本戦佐藤 天彦矢雁
㊴R4.11.25・26竜王七番⑤広瀬 章人相掛
㊵R5.1.21・22王将七番②羽生 善治相掛
㊶R5.2.1順位戦A級永瀬 拓矢角他
㊷R5.2.9・10王将七番④羽生 善治角銀

 これはたまたまであるが、負け数が先手番のちょうど倍となっている。
 後手番になると負ける可能性が高まるのは藤井に限ったことではない。とは言うものの、藤井の場合は少し極端かもしれない。

 では、負けた原因を1局ずつ特定していってみよう。
 やはり先手番の場合と同様、飛車や右桂が十分活用されなかったケースが多い。


1.
 飛車がうまく活用しきれずに負けたものは次の通り。

 ②の対局:
 26手目に8一へ収まった飛車は8八の相手玉を睨む役割を果たしてはいたものの、117手目に☗6三角と狙われ、6一へ逃げることとなった。それまでの間に次なる飛車の活用を図るべきであった。

 ③の対局:
 8六にいる相手の角を50手目に飛車で取るのであるが、5六にいた飛車(相手は菅井!)に同飛と取られてしまう。飛車角交換の形だが、8筋がガラ空きとなり、飛車に成られる展開となった。

 ④の対局:
 藤井の飛車は8一の定位置から82手目に相手の8五の歩を取っただけで87手で投了となった。

 ⑥の対局:
 藤井の飛車は全く動かないまま113手目に相手の「と金」で取られ、121手で投了となった。相手玉を睨んではいたものの、睨んだだけだった。

 ⑧の対局:
 8筋の上下移動で72手目に竜を作り、74手目で8二へ戻るが、その後は目立った活躍をしないで137手で投了となった。相手玉を睨んではいたが、物足りない。

 ⑨の対局:
 藤井の飛車は44手目で8六にいる相手の飛車を取るが、成果はそれだけで、63手目に角で取られてしまう。大駒のやり取りの続く159手までの乱戦であったが、「最初の飛車」の活用が不十分だった印象。

 ⑪の対局:
 藤井の飛車は40手目に相手の8六にいる歩を取り、42手目に8三へ移動し、46手目で6三の歩を取る。しかし飛車の成果はそれだけで、59手目で相手に取られてしまう。

 ⑭の対局:
 藤井の飛車は55手目で取られてしまう。飛車と引き換えに角を得た格好だが、2枚の馬は相手陣の両隅に留まったままだった。

 ⑮の対局:
 藤井は84手目に相手の飛車を得るものの、「最初の飛車」は70手目に8一へ収まったまま105手で投了するまで動かなかった。相手の玉はずっと5八におり、有効な活用ができないまま終わった。防御の役目を果たしたのかもしれないが、物足りない。

 ㉑の対局:
 70手近辺で互いの飛車を取り合う展開となるのであるが、藤井側の「最初の飛車」は8一の定位置から一歩も動かなかった。これに対して、相手の「最初の飛車」は6筋の攻防に参加し、「取った飛車」を後に6筋に竜を作る布石を敷いている。

 ㉔の対局:
 100手近辺で互いの飛車を取り合う展開となり、135手までで投了となったが、藤井側の「最初の飛車」は8筋から動くことはなかった。一方、相方の飛車は2九→5九→6九→3九と柔軟性を示した。

 ㉖の対局:
 102手目に相手の飛車を取る展開となるが、藤井の「最初の飛車」は8一に留まったままで、8六へ移動したのは136手目であった。165手で投了。

 ㉙の対局:
 相手の☗8六歩を☖同飛と取ったのが46手目。次に☗8七歩とされ、8一ではなく、☖8三飛とする。以下、109手で投了となる直前まで一歩も動かなかった。

 ㉚の対局:
 74手目に相手の飛車を取る展開となるが、藤井の「最初の飛車」は8筋の底に留まったまま。相手玉に睨みを利かせつつ防御にも役立てたのかもしれないが、飛車の活用としては不十分だった印象。

 ㉜の対局:
 藤井の飛車は42手目で相手の7六にある歩を取る。その後、64手目で8一に収まり、101手で投了するまで一歩も動かずに終わる。

 ㉟の対局:
 (双方)居飛車のまま、相手の53手目で飛車を取られてしまう。一時的な飛車角交換であり、すぐに飛車を取り返して猛攻するものの、一歩及ばず121手で投了となる。結果論になるかもしれないが、飛車捨てが正しかったのか疑問が残る。

 ㊳の対局:
 90手近辺で飛車を取り合う展開となるが、藤井側の「最初の飛車」は自陣内をウロウロしただけで目立った活躍ができなかった。(もっとも、相手の飛車はさらに2八から全く動かずに取られたが・・・。)

 ㊷の対局:
 藤井は72手目で相手の飛車を得るが、「最初の飛車」は8一に収まったまま終盤まで動かない。攻防に利いてはいたが、何か使い惜しみのような気もしないでもない。

 以上の18局を一覧表から除外すると、残るのは次の通りとなる。

  日付  棋戦 相手戦型
①H29.7.2竜王戦本戦佐々木勇気相掛
⑤H29.9.2加古川青流井出 隼平対三
⑦H29.11.13NHK杯本戦稲葉  陽相掛
⑩H30.6.29竜王戦本戦増田 康宏矢雁
⑫H30.9.3棋王戦本戦菅井 竜也対中
⑬H30.11.23叡王戦本戦斎藤慎太郎角他
⑯R1.5.28棋王戦予選都成 竜馬相掛
⑰R1.6.3王座戦本戦佐々木大地相掛
⑱R1.7.8NHK本指直久保 利明対四
⑲R1.8.29叡王戦予選村山 慈明角銀
⑳R1.10.7王将挑決リ豊島 将之相掛
㉒R2.3.9棋王戦予選出口 若武角他
㉓R2.10.5王将挑決リ豊島 将之相掛
㉕R3.5.6王座戦本戦深浦 康市矢雁
㉗R3.8.3叡王五番②豊島 将之角他
㉘R3.8.22叡王五番④豊島 将之相掛
㉛R3.11.21JT日本シリ決豊島 将之角他
㉝R4.1.16朝日杯本戦永瀬 拓矢矢雁
㉞R4.5.6王座戦本戦大橋 貴洸矢雁
㊱R4.8.10順位戦A級菅井 竜也対中
㊲R4.10.7・8竜王七番①広瀬 章人角銀
㊴R4.11.25・26竜王七番⑤広瀬 章人相掛
㊵R5.1.21・22王将七番②羽生 善治相掛
㊶R5.2.1順位戦A級永瀬 拓矢角他


2.
 右桂が使えずに負けた対局も次の通りと多い。

 ①の対局:
 相手の飛車の横利きがあるため、7四の歩を(最後まで)突くことができなかった。このため、右桂は36手目に9筋へ跳ねることとなり、後に歩で取られただけで活用させずに終わってしまった。

 ⑤の対局:
 7三の歩も9三の歩も最後まで一歩も動かず、右桂も不動のまま131手で投了となった。

 ⑰の対局:
 139手で投了するまで7三の歩が動かなかった。したがって右桂も活用できないまま終わった。

 ⑱の対局:
 137手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。

 ⑳の対局:
 139手で投了するまで7三の歩が動かなかった。したがって右桂も活用できないまま終わった。(玉が7一に収まったので、守り駒の役目を果たすことにはなったが・・・。)

 ㉒の対局:
 107手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。7三の歩は動いたが、9三の歩は最後まで動かなかった。

 ㉓の対局:
 171手で投了するほぼ直前まで7三の歩が動かなかった。したがって右桂も活用できないまま終わった。(中盤、玉が6二へ収まったので、守り駒の役目を果たすことにはなったが・・・。)

 ㉗の対局:
 137手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。

 ㉘の対局:
 藤井の右桂は38手目に9筋へ跳ねるが、活躍できないまま61手目で相手に取られてしまう。投了まで7三の歩は全く動かなかった。

 ㉛の対局:
 95手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。7三の歩は動いたが、9三の歩は最後まで動かなかった。

 ㉝の対局:
 109手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。(中盤以降、玉が右辺に来たので、守り駒の役目を果たすことにはなったが・・・。)

 ㊱の対局:
 109手で投了するほぼ直前まで右桂は動かずに終わった。

 ㊵の対局:
 101手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。

 ㊶の対局:
 129手で投了するまで右桂は一歩も動かずに終わった。(中盤以降、玉が右辺に来たので、守り駒の役目を果たすことにはなったが・・・。)

 これら14局をさらに一覧表から除外すると、残りは次の通りとなる。

  日付  棋戦 相手戦型
⑦H29.11.13NHK杯本戦稲葉  陽相掛
⑩H30.6.29竜王戦本戦増田 康宏矢雁
⑫H30.9.3棋王戦本戦菅井 竜也対中
⑬H30.11.23叡王戦本戦斎藤慎太郎角他
⑯R1.5.28棋王戦予選都成 竜馬相掛
⑲R1.8.29叡王戦予選村山 慈明角銀
㉕R3.5.6王座戦本戦深浦 康市矢雁
㉞R4.5.6王座戦本戦大橋 貴洸矢雁
㊲R4.10.7・8竜王七番①広瀬 章人角銀
㊴R4.11.25・26竜王七番⑤広瀬 章人相掛


 だいぶ少なくなった。
 しかし、ここからは新たな「負けの法則」を探り出していかなければならない。


3.
 「先手番編」でも触れたが、藤井は角の使い方の名手である。
 角行がうまく活用しきれずに負けたと考えられるものがいくつかある。

 ⑦の対局:
 相掛かりのスタートから藤井の角が初めて動いたのが78手目の☖3三角。相手は61手目で馬を作っている。飛車の活用を図るのが遅かったのではないだろうか。

 ⑯の対局:
 相掛かりの出だしから角交換するが、25手目に☗8二角と打たれ、9一に馬を作られてしまう。直後、☖8三角と応じるが、そのうち今度は7三に竜を作られてしまい、藤井の角は馬に取られてしまう展開となる。角がうまく使えずに敗北を喫した印象。

 この2局を除外すると、残るのは次の通り。

  日付  棋戦 相手戦型
⑩H30.6.29竜王戦本戦増田 康宏矢雁
⑫H30.9.3棋王戦本戦菅井 竜也対中
⑬H30.11.23叡王戦本戦斎藤慎太郎角他
⑲R1.8.29叡王戦予選村山 慈明角銀
㉕R3.5.6王座戦本戦深浦 康市矢雁
㉞R4.5.6王座戦本戦大橋 貴洸矢雁
㊲R4.10.7・8竜王七番①広瀬 章人角銀
㊴R4.11.25・26竜王七番⑤広瀬 章人相掛


 8局残っている。これらは、飛車も角も桂馬も活躍し、それでも負けた将棋である。
 何が敗因だったのだろうか・・・?


4.
 藤井聡太は、盤面全体を見渡し、全ての駒を駆使して勝利をつかむ棋士である。
 1筋9筋が手つかずだったので負けたと思われる対局がいくつかある。

 ⑩の対局:
 両対局者とも1筋9筋の歩と香車は最後まで全く動くことがなく、125手で藤井の投了となった。

 ⑫の対局:
 藤井は74手目で相手の9九の香車を取る。しかし、相手を含め、それ以外の1筋9筋の歩と香車は全く動くことなく、133手で投了となった。相手(菅井)が中飛車だったため、中央での戦いが中心となったこともあるのか(?)。

 ⑬の対局:
 互いに両端の歩を突き合ったが、それ以上の動きはなく、135手までで藤井の投了となる。

 ㉕の対局:
 両対局者とも1筋9筋の歩と香車は最後まで全く動くことがなく、105手で藤井の投了となった。

 ㉞の対局:
 両対局者互いに1筋の歩を突き合うが、それ以外の両端の歩と香車は最後まで全く動くことがなく、129手で藤井の投了となった。

 ㊲の対局:
 互いに両端の歩を付き合い、相手は1筋の香車を1八に上げたが、それ以外に両端の動きはなかった。107手までで藤井の投了となった。

 これで6局が除外される。


 ここまでを整理すると、後手番として敗因となったのは、
(1) 飛車の働きが不十分
(2) 右桂が使われず
(3) 角の活用が不十分
(4) 1筋9筋が手つかず   の4点となる。

 先手番の場合と同様、こうなったら必ず負けるという訳ではない。負ける可能性が生じてくるということに過ぎない。しかし、藤井の場合は「負ける可能性が生じてくる」というのが重要なのである。


 さて、最後に残るのが次の2局だ。

  日付  棋戦 相手戦型
⑲R1.8.29叡王戦予選村山 慈明角銀
㊴R4.11.25・26竜王七番⑤広瀬 章人相掛


 この2つの将棋の敗因が分からない。
 飛車も角も桂馬も活躍した上に、端の戦いも起こし、それでも勝てなかった。
 負けた要因を探そうと村山慈明との対局の棋譜を熟読し、思わず「藤井聡太全局集 令和元年度版」の図面の誤りを見つけてしまったが、敗因の方は見つからない。

 敗因不明だ。

 ver.0.002に期待してくれ!! 俺も(なるべく)成長する!!!!